はじめに
ESP32 シリーズとは
ESP32 は Espressif Systems(上海)が開発・製造するマイコン(SoC)シリーズです。低価格ながら Wi-Fi と Bluetooth を標準搭載しており、IoT デバイスやホビー電子工作から産業用途まで幅広く使われています。
初代 ESP32 の登場以降、用途に特化した派生チップが次々とリリースされました。Bluetooth のみのモデル、USB を内蔵したモデル、IEEE 802.15.4搭載など、選択肢が豊富になっています。
本記事ではデータシートを閲覧できるモデルをまとめて比較します。
比較
主要スペック比較表
項目 | ESP32 | ESP32-S2 | ESP32-S3 | ESP32-C3 | ESP32-C5 | ESP32-C61 | ESP32-C6 | ESP32-H2 | ESP32-P4 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
CPU コア | Xtensa LX6 ×2 | Xtensa LX7 ×1 | Xtensa LX7 ×2 | RISC-V ×1 | HP RISC-V ×1+LP RISC-V ×1 | RISC-V ×1 | RISC-V ×1 | RISC-V ×1 | HP RISC-V ×2 + LP RISC-V ×1 |
動作周波数(最大) | 240 MHz | 240 MHz | 240 MHz | 160 MHz | 240 MHz | 160 MHz | 160 MHz | 96 Mhz | 360 MHz |
SRAM(最大) | 520 KB | 320 KB | 512 KB | 400 KB | HP 384 KB + LP 16 KB | 320 KB | 512 KB | 320 KB | HP 768 KB (L2MEM) + LP 32 KB (SRAM) |
Wi-Fi | Wi-Fi 4 | Wi-Fi 4 | Wi-Fi 4 | Wi-Fi 4 | Wi-Fi 6 (2.4+5 GHz) | Wi-Fi 6 (2.4 GHz) | Wi-Fi 6 (2.4 GHz) | なし | なし |
Bluetooth | BT 4.2 + BLE | なし | BLE 5.0 | BLE 5.0 | BLE 6.0 | BLE 6.0 | BLE 5.3 | BLE 5.3 | なし |
USB | なし | USB OTG FS | USB OTG FS | USB Serial/JTAG | USB Serial/JTAG | USB Serial/JTAG | USB Serial/JTAG | USB Serial/JTAG | USB 2.0 OTG HS |
Thread / Zigbee | なし | なし | なし | なし | あり | なし | あり | あり | なし |
USBの見方:■ USB OTG FS = Full Speed (12 Mbps)、ホスト・デバイス両対応 / ■ USB Serial/JTAG = 書き込み・デバッグ専用、汎用 HID 等には使えない / ■ USB 2.0 OTG HS = High Speed (480 Mbps)、最高速
シリーズの違い
ESP32無印
ESP32シリーズの原点となるモデルです。Xtensa LX6 デュアルコアを搭載し、Wi-Fi 4とBluetooth 4.2(クラシックBT)を両方サポートする唯一のモデルです。既存のエコシステムや対応ライブラリが最も充実しており、情報量も豊富なため、今でも入門用途や汎用開発に広く使われています。
ESP32-Sシリーズ
無印ESP32の後継にあたる高性能ラインです。CPUをXtensa LX7に刷新し、処理効率が向上しています。S2はUSB OTG FSを初めて搭載したモデルで、シングルコアながらUSBデバイス/ホスト機能を活かした用途に適しています。S3はデュアルコアに戻り、BLE 5.0も搭載。AI推論向けのベクトル演算命令も追加されており、画像認識や音声処理など、エッジAIを視野に入れたアプリケーションに向いています。
ESP32-Cシリーズ
RISC-Vコアを採用したコスト重視のラインです。C3はシリーズ初のRISC-Vモデルとして登場し、小型・低価格なWi-Fi+BLEデバイスの定番になっています。C5はWi-Fi 6(2.4GHz+5GHz両対応)とBLE 6.0を搭載し、Cシリーズ最高の無線性能を持ちます。C6はWi-Fi 6(2.4GHzのみ)にThread/Zigbeeを加えたスマートホーム向けモデル。C61はC6の廉価版に相当し、Thread/Zigbeeを省いたシンプルな構成です。
ESP32-Hシリーズ
Wi-Fiを持たず、IEEE 802.15.4(Thread/Zigbee)とBLE 5.3に特化したモデルです。メッシュネットワークやスマートホームのハブ・エンドノードとして使うことを想定した設計で、動作周波数は96 MHzと控えめですが、低消費電力・低レイテンシの近距離通信が得意です。
ESP32-Pシリーズ
ESP32シリーズ最高性能を誇るハイエンドラインです。HPコアをRISC-Vデュアルコア(最大360 MHz)+LPコアの構成で搭載し、L2キャッシュを含む大容量SRAMを備えます。USB 2.0 OTG HS(480 Mbps)を内蔵しており、高速データ転送や映像処理、HMIなど、マイコンの枠を超えた用途を担います。無線機能は持たないため、別途ESP32-C6などと組み合わせて使うことが想定されています。
個人的おすすめ
用途によって最適なチップは変わりますが、実際の開発やホビー用途での体感を踏まえると、以下の使い分けがおすすめです。
【開発時の重要なポイント】 モデル選びの前提として、USB(USB Serial/JTAG または USB OTG)を内蔵しているモデルを選ぶのが強くおすすめです。別途シリアル変換モジュールや専用デバッガー(ESP-PROGなど)を用意しなくても、PCと直接ケーブル1本で繋ぐだけでプログラムの書き込みやシリアルモニタリングができるため、開発の利便性が格段に上がります。
これらを踏まえ、具体的なおすすめモデルは以下の通りです。
- ESP32-S3:カスタムデバイスや汎用開発の決定版 USB OTGを内蔵しているため、自作キーボードの制御基板やPC向けのカスタムHIDデバイス開発に最適です。デュアルコアで処理能力も高く、情報も豊富なので「とりあえず少し高度なことをしたい」時のファーストチョイスになります。
- ESP32-C3 / C6:小型・低コストなIoTエンドノード USB Serial/JTAGを内蔵しつつ非常に安価で省電力なため、自動給餌器のような既存の家電の内部基板をリプレイスしてスマート化・クラウド連携させる用途にぴったりです。C6を使えばMatter/Thread対応のモダンなスマートホーム環境にも組み込めます。
おわりに
ここまで単独で動作するマイコン(SoC)としてのESP32シリーズを見てきましたが、公式サイトのラインナップには新たにESP32-Eシリーズ(ESP32-E22など)という興味深いモデルも追加されています。
これはマイコンではなく、パソコンやタブレット、高性能なプロセッサに対して、PCIeやSDIO接続でWi-Fi 6E(トライバンド)やBluetooth 5.4の通信機能を提供する「RCP(Radio Co-Processor)」と呼ばれる専用コプロセッサです。
IoTのエンドノードから、PC用の通信モジュール、さらにはハイエンドな処理を行うPシリーズまで、Espressifのエコシステムはますます隙のない構成へと進化しています。自身のプロジェクトの要件に合わせて、ぜひ最適なESP32を選んでみてください。